ラベンダーと星空の約束
普通なら、こう言うシチュエーションはドキドキする物なのだろう。
少女漫画やドラマの中では大樹の顔が近づいて、
「チュッ」とかするのが、セオリーかも知れない。
でも…無いよね。
私達の間にそれは有り得ない。
こうして至近距離で見つめ合う事さえ、普通の領域に入る。
それは私の勝手な思い込みではない。
大樹は私の事が好きで、女として見ていると今でも思うけど、
私に恋愛を求めるつもりは一切ないと確信している。
例えば私が気まぐれで「キスしてもいいよ」なんて言った所で、大樹はそれを喜んだりしない。
そんな事を言えば、熱があるんじゃないかと心配されそうだ。
大樹は真っすぐなバカだから、一度決めた事は曲げずに貫き通す。
自分は私の幼なじみで親友で、弟の様な存在なのだとポジションを定めたあの日から、
大樹はこの先ずっと、それを守り続けるだろう。
それにしても、いつまで私の顎を掴んでいるつもりなのか。
こうして至近距離で見上げていると、首が疲れる。
目線を合わせたいなら、もう少し屈んでくれないかな。
大樹と私の身長差は30cm程。
大きく育ったもんだよね。
小学校低学年の時は、私の方が背が高かった。
高学年で同じ位の身長になり、それからは見下ろされるばかりだ。
大樹は自分の家で6割、うちで4割はご飯を食べていると思うから、
私が食べさせて大きく育てたと言っても過言じゃない。
青空同様、大樹は私が育てた様な物…
あっ…しまった。
こんな事を考えてしまうから、ババ臭いと言われるんだ……
私はそんな事を考えて、大樹もきっと色気抜きのくだらない事を考えて…
暫く私達はそれぞれの思考の中、黙って見つめ合っていた。
すると私の後方で、店のドアが開けられる音がした。