ラベンダーと星空の約束
「や…やっぱり…」
上擦った声もして振り返ると、帰った筈のアルバイトの男の子が一人、頭を抱えて入口に立ち尽くしていた。
「あれ?三浦君まだ居たんだ。
もう上がっていいんだよ?」
彼はここ3年間、観光シーズンのみのアルバイトをうちでしてくれている三浦君。
地元の高校3年生で、青空の一つ下の後輩。
うちでバイトする人の大半は、実は北海道外の人だったりする。
観光も兼ねてひと夏のアルバイトを富良野で…
そんな動機の若者が殆(ホトン)どで、毎年メンツは入れ代わる。
そんな中、3シーズンも続けて働いてくれる三浦君は貴重な存在。
オリエンテーション無しで仕事初日からバリバリ働いてくれるし、
今年は他のアルバイトの人達の指導までしてくれて、本当助かっている。
来シーズンもお願いしたい所だけど…無理だよね。
進学にしても就職にしても、富良野で夏だけのアルバイトなんてもう出来ないと思う。
そんな貴重なアルバイト要員の三浦君が、泣きそうな顔で叫んだ。
「紫さんの嘘つき!」
「え…何で?」
「やっぱり大樹さんと、付き合ってたんじゃないすか!
酷いっすよ…俺本気で告ったのに……
あん時、大樹さんは彼氏じゃないって言ったじゃないですか!」
そう言われて、三浦君が頭を抱えていた理由をやっと理解した。
この夏の始めに彼から
「好きです!付き合って欲しいっす!」
と元気ハツラツな告白を受けた。
三浦君は貴重なアルバイト要員。
でもだからと言って、彼の恋愛感情を利用し、いつまでもうちで働いて貰おうなんて酷い事は…
チラリと頭を掠めた程度で、思ってはいない。
だからその時、スッパリはっきり断った。
「ずっと待っている人がいるから付き合えない。
え?違う、大樹じゃないよ。
三浦君の知らない人」
そうハッキリ断ったのに
「俺諦めませんから!」
と言われてしまった。
だけどその後、彼からのモーションは何もなく、
いつも通りに働いていたから、てっきり諦めたのかと思っていたのに…
こうして大樹と二人で居るがショックみたいだから、本当に諦めてなかったんだ。