ラベンダーと星空の約束
三浦君を特別扱いなんてしていない。
「はい紫さん!」
「了解っす!」
と素直に何でも言う事聞いてくれるから、優しくすると言うより、こき使ってる気もする。
今日だって青空がいない分、三浦君にかなり力仕事押し付けちゃったし…
首を捻る私。
大樹は「勘違い野郎か…」と、憐れみの視線を向けている。
そんな私達に向け、彼は拳を握りしめながら力説し始めた。
「紫さん覚えてないっすか?
一昨年の夏、俺の仕事初日の事」
「三浦君の仕事初日?かなり前の話しだね。
確かアルバイトさんが一人突然辞めちゃって、シーズンの途中から急遽来て貰ったんだよね?
あっ青空が、高校の後輩と言って連れて来たんだ」
「そうっす!青空さんに頼まれて入ったんです!
あの日すげぇ混んでて、俺何も分からないのに、お客さんに色々聞かれたりして、テンパってたら、紫さんが助けてくれました!」
あの日はシーズン最高潮に忙しい日だった。
開店直後から昼過ぎまで、大型バスの団体客が切れ間なく訪れて、
やけに忙しくバタバタしていたのは覚えている。
でも三浦君を助けてあげただろうか?
逆に教える暇なくて、放置して申し訳なく思った記憶ならあるけど…
「パニクる俺に、紫さんは優しく言ったんです。
『忙しくてちゃんと教えてあげられなくてゴメンね。
今日は接客しなくていいから、エプロン外してお客に紛れていて。
私の動きを見ながら、何と無く仕事を掴んでくれるだけでいいから』
テンパる俺を助けてくれた紫さんは、女神みたいで、マジ惚れしたんです!」
「そ、そうなんだ…」
彼の言葉で、自分がそんな事を言った記憶も何とか蘇ってきた。
でも残念ながら、女神な気持ちからそう言った訳じゃない。
激混みな店内で、入ったばかりの三浦君はハッキリ言って邪魔だった。
でもそれは彼のせいじゃないし、緊急補充アルバイト要員を、青空がやっとの思いで見つけてきたんだ。
それなのに初日に「今日は帰れ」と言えない。
気分を害して次の日から来なくなったら困るもの。
だけどあの日は悠長に教えていられる状況じゃなく…
それで取り合えず、店のエプロンは外してもらった。
エプロン着たままだと、お客さんは何も分からない三浦君にもオーダーしちゃうから。