ラベンダーと星空の約束
 


後は、私に付いて回って見てるだけでいいからと、言うしかなかった。



苦肉の手段で放置と言ってもいい教え方で、申し訳ないと思っていた。

優しさなんかじゃ全然ないのに…



それなのに目の前の三浦君は、キラキラした目で私を見ている。

心苦しくて「邪魔だったから…」と本当の事は言い出せない。





「まだあります!

俺がTシャツ3枚しか持ってなくて、洗濯が大変だってぼやいてたら、

紫さんが新しいTシャツを10枚もくれたんです!
覚えてますよね?」





ああ…それも2年前の話しだね。



三浦君の家は完全個人主義で、母親が家族全員の洗濯をするのではなく、自分の服は自分で洗濯をするらしい。



それは別にいいのだけど、彼は洗濯するのを忘れたりするみたいで…



昨日着ていたTシャツを、洗わず翌日も着てきたりして、臭かったんだよね。



真夏だから汗びっしょりになるし、

私は一日で2〜3回着替える事もあるのに。



別に三浦君が特別にズボラだと言いたい訳じゃない。



彼は普通の男の子だよ。

大樹なんか、未だに母親に洗濯して貰ってるし、

一人暮らしを始めた当初の青空も

「洗濯機ってどうやって使えばいいの?」

と電話で私に聞いてきた。



実家暮らしなのに、高一から自分で洗濯していた三浦君は、偉いと思うよ。



でもね、臭いのはやっぱり困る。客商売だしね。

臭いをごまかす為に、香水を付けてきた日には鼻が曲がりそうになって、

慌てて青空のTシャツに着替えさせた。



そんな事もあって、店の倉庫に眠っていたTシャツをあげたんだ。


数年前の売れ残りや、試作品で業者さんから貰った物だから、

北キツネやヒグマのイラストがプリントされてるんだけど、

それでも彼は喜んで着てくれた。いい子だよね。





「まだあります!」


「まだあんのかよ…」




大樹が明白(アカラサマ)にウンザリした顔をして、掃除の為にテーブル上に裏返して乗せてあった椅子を一脚下ろし、座り出した。




「タラコのお握りも感激したっす!」



「あ゙?意味分かんねぇ」



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