ラベンダーと星空の約束
「大樹さんは分かんなくていいです。
紫さん、俺の為にタラコのお握り作ってくれましたよね?」
「えっと…賄(マカナ)いのお昼ご飯のことかな?」
「そうっす!
お握りはタラコが一番好きだって紫さんに言ったら、次の日から3日間、タラコのお握りを作ってくれて、
マジ旨かったっす!」
三浦君のお握りの好み、聞いた事あったかな?
タラコが好きなんだ…悪いけど覚えてない。
大樹が好きなのはエビマヨで、青空はチーズオカカで、
流星は何でも「美味しい!」と喜んで食べてくれるのは、記憶してるけど。
「しかも3日目のタラコお握りは、手間を掛けて焼きタラコにしてくれて、感激してマジ泣きそうでした!」
『焼きタラコ』…
そう言われて、3日連続賄(マカナ)いをタラコお握りにした事は思い出した。
それは去年の話しだ。
彼のお握りの好みを聞いたから、連日タラコお握りを作った訳じゃない。
理由は単に、タラコの賞味期限が切れそうだったから。
3日目に焼きタラコにしたのは、ついに賞味期限が切れて、念のため火を通した方が安心かなって思っただけであって…
どうしよう。
バイト初日の出来事も、Tシャツもタラコお握りも、
それらは優しさじゃなくて、全て三浦君の勘違いだと言ってもいいのかな?
でも…傷付けて仕事に身が入らなくなるのは困るし、辞められたらもっと困る。
再び「どうしよう」と言う視線を大樹に向けるが、今度は助けてくれなかった。
返ってきたのは
「知らねぇ、自分で何とかしろ」
との冷たい言葉。
大樹は椅子から立ち上がると床に落ちていたモップと雑巾を拾い、
私から離れた所の、床掃除の続きを始めてしまった。
助ける気のない大樹を見て仕方なく、やんわりと自分で誤解を解こうと試みる。
「あ、えーと…三浦君?」
「はい、紫さん!」
「私は三浦君に、特別優しくしてたつもりはないよ?」
「分かってます。紫さんは店の皆に優しいです!
優しくて可愛くて、けど仕事はバリバリこなして超カッコイイっす!
大好きです!!」
「あ、ありがとう…えーと…じゃあ優しいかどうかは置いといて…
三浦君の気持ちには応えられないよ。
前に言ったよね?ずっと待ってる人がいるって」