ラベンダーと星空の約束
「はい…でもその人現れないじゃないすか。
それなら俺は諦められません!」
困った。
流星はもう少しで帰ると思うけど、はっきりした日にちは分からないし…
それまで三浦君は諦めてくれないのだろうか?
どう説得すれば…
うーん……分かんない。
別に諦めさせなくてもいいかな?
段々面倒臭くなってきた。
流星が帰るまで保留にしといても…
でも…帰って来た流星に、この子が突っ掛かって行ったりしたら嫌だし……
黙って考えていると、離れた所をモップ掛けしている大樹が、こっちに背を向けたままイラついた声で言う。
「はっきり言えばいいだろ。
勝手に惚れんな、迷惑だって」
「迷惑なんて…そんな酷い事言えないよ。
片思いの切なさは私にも分かるもの」
私にも、片思いと言える時期があった。
流星が私を忘れていた時、記憶を取り戻すまでの間は、片思いしていた様な物だよね。
高校一年生だったあの時の気持ちが一瞬だけ蘇ってきた。
そうだよ…片思いって切ないんだった。
恋をするのは凄くパワーがいるし、
告白するなんて、有りったけの勇気を振り絞らないと出来ない。
初対面で軽く誘ってくるお客さん達と、同じ様に彼をあしらってはいけない。
3年間私に片思いしている三浦君は今、一生懸命恋してるんだ。
面倒臭いなんて思って本当にゴメン。
私には彼の気持ちを受け止める義務がある。
反省と共に彼の両手を握りしめ、赤くなるその顔をしっかり見つめて、真剣に言った。
「人を好きになる切なさは、私にも分かるよ。
三浦君、好きになってくれてありがとう。
告白してくれてありがとう。
凄く嬉しいよ。
一生懸命な三浦君の気持ち、私はちゃんと受け止めるから!」
「…紫さん…それって…
OKってことすか…?」
「ううん、ダメ。私の事は諦めて。
でも明日も元気に仕事に来てね?」
「…そっすか…」
期待の表情を見せた直後、がっくりと肩を落とし項垂(ウナダ)れた三浦君。
「酷ぇな…上げてから突き落とすのかよ…」
モップを動かす手を止め、こっちを向いた大樹は、
未知の生物に直面した様な目で私を見ると、独り言の様にそう呟いていた。