【完】小さなしあわせ、重ねよう。


「「いただきます」」


いただきます、と言うのも普通になった。

まずは味噌汁を一口含み、味わって飲みこんだ。

…畑辺家は白味噌なのか。

続けて、鮭、胡麻和えを食べた。

一口も手をつけてないのは、


…ピーマンとソーセージの塩コショウ炒めだけだ。


…久しぶりだ。

ピーマンとソーセージを一つずつ箸で掴み、口に運んだ。


…懐かしい...本当に懐かしい...


シャクッとしたピーマンに、パキッと歯応えのいいソーセージ。

味付けは塩コショウだけという実にシンプルな料理だというのに、本当に美味い...


「田邊くん...どうしたの?」


畑辺が心配そうに俺を見つめていた。


「え?」

「だって、泣いてる...」


…泣いて...る?

そっと空いていた左手で自分の頬を触った。
さらっとした液体の感触。
それで初めて泣いているのだと自覚した。


「ごめん、それそんなに不味かった?」

「…いや、すごく美味しい」

「じゃあ、どうして?」

「ちょっと俺の話聞いてくれる?」


畑辺なら話してもいいと思えた。



…俺の昔の話。


< 35 / 76 >

この作品をシェア

pagetop