【完】小さなしあわせ、重ねよう。
「「いただきます」」
いただきます、と言うのも普通になった。
まずは味噌汁を一口含み、味わって飲みこんだ。
…畑辺家は白味噌なのか。
続けて、鮭、胡麻和えを食べた。
一口も手をつけてないのは、
…ピーマンとソーセージの塩コショウ炒めだけだ。
…久しぶりだ。
ピーマンとソーセージを一つずつ箸で掴み、口に運んだ。
…懐かしい...本当に懐かしい...
シャクッとしたピーマンに、パキッと歯応えのいいソーセージ。
味付けは塩コショウだけという実にシンプルな料理だというのに、本当に美味い...
「田邊くん...どうしたの?」
畑辺が心配そうに俺を見つめていた。
「え?」
「だって、泣いてる...」
…泣いて...る?
そっと空いていた左手で自分の頬を触った。
さらっとした液体の感触。
それで初めて泣いているのだと自覚した。
「ごめん、それそんなに不味かった?」
「…いや、すごく美味しい」
「じゃあ、どうして?」
「ちょっと俺の話聞いてくれる?」
畑辺なら話してもいいと思えた。
…俺の昔の話。