【完】小さなしあわせ、重ねよう。


「田邊くん...」

「ちがう、慶起」


名前で呼べと言ってみる。

そうすれば案の定、


「よ、しきっ」


真っ赤な顔して詰まらせながら呼んでくれる。

かわいい…。

上原さんのアドバイスのおかげでいいもの見れた。

今度お礼言っとかなきゃな。


幸せいっぱいで抱き締めていると、
沸々と何かが煮えたぎる音が聴こえてきた。


「あ、えみ、肉じゃが」

「えっ?!あ...慶起のバカァ...なんてねっ」


イタズラッ子のようにベーっと舌を出して笑う仕草も、俺の心を鷲掴みする。

…バカはお前だよ。


「なぁ、」

「んー?なにー?」


背中越しの上機嫌な声。

その声はきっと次の一言で一変するはずだ。
耳元でまた低い声で囁いた。


「…えみを食べたい」

「っ?!♀♂¥%&▲○」


…数十分後。

疲れたようにぐったりと、
でも幸せそうに微笑んで、
俺の腕の中で眠っている笑美。


「頑張った、えらい」


ありがとうの意味を込めて、
額にかかった前髪をあげて額にキスをした。
それから、ひとの肌の温かさを感じていると、瞼がスッと重くなった。



…えみ、愛してる。



< 65 / 76 >

この作品をシェア

pagetop