【完】小さなしあわせ、重ねよう。
「で、式はいつにするんだ?」
突然の質問に、
ブルーベリーと生クリームが塗られたスポンジを口に運んでいた手を止めた。
「…いや、早いから」
「こういうことは早い方がいいだろう?」
「そりゃ、そうだけど」
「なぁ、笑美さん」
あははっ...
と乾いた声でえみは苦笑いするだけだった。
…正直、悩んでる。
まだえみにちゃんとしたプロポーズはしてない。
「お、もうすぐ16時だ。そろそろ帰らないといけないだろ?」
「あぁ、うん」
「あっ!そうだ。これを持って帰れよ」
父が差し出したのは、袋いっぱいのじゃがいも。
「お前好きだっただろう、シチュー。未来の奥さんに作ってもらえよ」
ニカッとした顔は、どこか照れくさそうだ。
でもそれよりも、父が俺がシチューが好きなことを覚えてくれてたのが嬉しかった。
それから少しして懐かしかった、あの父との空間を後にした。
別れ際、父は
"しっかりやれよ。私はいつまでもお前の味方だ"
嬉しいことを言ってくれた。
そして、
"いつも大事な人のそばにいろよ"
と。
苦々しい顔をして。
母のことを今でも確り想ってくれているようだ。
…よかったね、母さん。