祠の鬼
名前を聞くなりお礼を言って、沙夜はまるで台風の如く去っていった。



カウンター越しで雨野がため息をつく。なぜか彼が、申し訳なさそうに謝る。



「待たせてごめん。本貸して」

「ぜ、全然大丈夫です!」

「気を遣わなくてもいいのに。よく借りにきてくれるよね花籠さん」

「え……」

「教室でもよく読んでるし。本当に、本が好きなんだなって」

「でも……わたし、沙夜ちゃんと比べて影薄いし……」

「杞憂だと思うけど」

「雨野くん……?」

「何でもない」



一瞬暗く翳(かげ)ったような気がしたが、次の瞬間には何もなくまるで、夢でもみていたような気分だ。



何事もなかったように、本を差し出され慌てて受け取る。



「あ、ありがとう」

「だから図書委員なんだってば。南田さんが戻って来るまで何か読む? 新しく入った本があるよ」

「……うん」



この静かな空間に二人だけでいるのは、照れ臭いような変な感じだと思った。しかしそれは新しく入った本への世界に入ってしまえば、すぐ消えてしまった。


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