バカと利口は紙一重~実話込み~
 三日後の午後。

 五時間目の最中に、急に雨がザーザー降り出した。

 一歩外出ればびしょ濡れって感じの大雨で、机の上に座ったり、廊下に溜まったりしながら喋ってる人の数がいつもより多かった。

 こんなときにために、オレは折りたたみ傘を持っている。

 ちょっと優越感だよな~。

 教室の掃除が終わり、カバンの中から傘を出してから帰ろうとすると、廣子が教室に入ってきた。

 普通、みんな荷物を持って掃除場所に移動するのに。

 廣子は自分の席に座ると、机の中から本を出して読み始めた。

 みんな誰かと一緒にいるのに、廣子だけは一人、蛍光灯の下で静かに本を読んでいる。

 白い手が艶髪に触れ、くるっと髪を耳にかけた。

 せっかくかけた黒髪はあまりにサラサラしてるせいで、すぐにはらはらと頬を打つ。

 なだらかな曲線を描く、薄桃色に染まった滑らかな頬。



 可愛いよな……



 オレが勝ってるのなんか、鼻の高さくらいのもんだ。



 ―――は? オレ何考えてんの?



 いつの間にかオレは自分を廣子と比べてた。

 オレと廣子じゃ違いすぎて比較の対象にさえなんねぇのにさ。


 【生徒会抜けらんねぇ?】


 優にメールを打った。


 【もうすぐ終わるよ。どうかした?】

 【教室で待ってるから、来るときメールしろ】


 ケータイをポケットにしまってオレは廣子に近づいた。


 「何読んでんの?」


 そう問うた声が、なんだかいつもより低かった。

 廣子はふっと顔を上げる。

 オレと分かると安心したように微笑んで本を閉じる。

 上を向いて丸まった長い睫毛、焦げ茶の目。

 低めの鼻は廣子のチャームポイントだった。

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