華は儚し

「今、菊乃丞様が来られました。

道の途中、

自殺をしているときあの方は私を止めて、

抱いてくださったのです」


「…死ぬ…だと」



「……宗十郎様しか、

愛せなかったからです」


俺が掴んでいた手を優しく離された。


前のような潤んだ瞳ではなく、


乾いた目をして微笑みかける。


「さよなら、宗十郎様。

あと、お父様にお伝えください。

親不孝者ですみませんと」

「待て、ことが早すぎる。

それから…、

俺は桐里が欲しいと言っただろう」


契りが嘘となるのか?


と思ったが、

桐里の小指は包帯で巻かれていて、

どこまで純粋なんだと絶句する。
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