華は儚し
強く握られた右手が汗ばんでしまうのは、
好きな方を想うと
体が熱くなってしまうからでした。
「生島新五郎に会ったか」
「あったと言いますか、
私たち多くの女性たちの前で
自己紹介をしていました。
その隙に、貴方様に会いに来たのです」
ほくそ笑んだ彼は
頬に口づけをしました。
「ならよかった。
なら他に気になる事でもあるか」
ふと浮かんだことであるのなら、
「…絵島様は生島様を
好いていらっしゃるのでしょうか。
熱い視線を送っていらっしゃったので」
彼彼女の話です。
「私は不安だったのだ、
お前が私でない他の男を
想ってしまうのではないかと」
「ありえません!
慕う人は貴方様しかありえないのです」
「嘘だ。確かめたかった…」
愛に満ちた幸せがないとしても
今の幸せを優先させてしまいます。
「ここで待っていてくれ、
化粧をしてくる」
「はい、お待ちしています」
「誰が戸をたたいても、
菊乃丞以外は開けてしまうな」
頷いて、
宗十郎様を想い続けるように横になったのです。
―開けてくれ、菊乃丞だ
声が菊乃丞様で、
体を起こして言われたことを守ったつもりでした。