華は儚し
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「どういうことだ…、
と言いたそうだな」
生島の衣裳部屋に来ていれば、
俺が桐里にあげた簪を堂々とつけていたのだ。
「良い女だった。
体も声も、お前が心底惚れるわけが分かった。
残念だが、
お前の桐里は私が頂いた。
寧ろもらってと乞うのだ」
心が重く感じる。
桐里が嘘をつくのか…、
俺を一心に愛したのは偽りなのか?
「金はいらないとさ。
ただ自分を抱いてほしいと」
「…桐里が言うわけない」
「そう思いたいだけだ。
所詮女は私のためなら何でも尽くそうとする。
桐里の肌はこれまでの女より
柔らかく艶があった。
毎日抱けたお前が羨ましい」
「うるさいっ…桐里を返せ!」
どう考えてもあの女が嘘をつくわけがない。
何も知らないで生きてきたから。
部屋を飛び出す俺は、
会えるわけもないのに
江戸城に向かって走ったのだ。
私を愛してくれたから
契りを交わした小指を傷つけ、
自害し損ねる女を私は信じる。
すでに闇は空一面に纏い、
戻ろうか迷うと川辺に
女一人立っていることに気付いた。
身投げだ。
嫌なものを見てしまったことより、
身投げをした人物だった。
「何をしている!!」
冷たい川の水に白い夜伽の浴衣が
肌を露わにさせて、
助けた時は気を失った桐里だった。
胸に抱き川辺で
彼女が目を覚ますのをひたすらに待ち、
半刻ほどたてば、
「…そ…十郎様…?
ここは…きっと極楽でしょうか。
貴方様なしで生きられないのです」
「如何して馬鹿なことした」