イケナイ狼君の××。
仁side
「こ、コウのとこに行かないと行けないから行くね!」
ひかりはそう言ってオレから逃げていった。
しかたねーよな、いきなりあんなこと言われたら気まずいしな。
ひかりがいなくなった生徒会長室が、いつも以上に広く感じた。
ほんとはあんなこと言う予定ではなかった。
だけど、ひかりがあまりにも予想を超えるくらいみんなと打ち解けるから、少し焦っていた。
「オレらしくねーな…」
コーヒーを飲みながら一息つく。
鹿男があんな提案なんかしなかったらこんなことにはならなかったかもしれない。
だけど乗ったのはオレだ。
「はぁ…」
ここまで女のことで悩んだりするのは初めてで、それなりに疲れていた。
ひかりがどういうヤツなのかまだ把握はしていない。
だから知っていくために生徒会に連れて来たのはいいものの…
正直あんまりひかりと一緒の時間は少なかった。
どうすりゃいんだよオレは…
ひかりがわからない。
何を思っているのか。
どういう気持ちなのか。
そればかりが気になって仕方ない。
やっぱりちょっと強引すぎたんかな…
最近は自分を柄でもなく責める。
そんなことを考えていたら、鹿男がそっとオレの部屋へ入ってきた。
「仁…」
「おう…どうした?
食い終わったんか?」
「一応…
…ところで仁」
いつもの鹿男とは違う表情。
その表情には真剣さが表れていた。
「ん?」
「俺さ、ひかりちゃんのこと気になってきた」
「!?」
あまりにも衝撃的な言葉にビックリすることしかできなかった。
「なんだよいきなり…」
「いや…さっきひかりの素顔見た瞬間、俺の中でビビっときたんだ」
今まで鹿男と一緒にいて、女に対して初めてそんなことを言った鹿男。
正直ビックリしすぎて何も言葉を返せない。
「なんかひかりってさ、今までの女の子と違うっていうか…」
それはオレも思う。
だから生徒会に連れてきたし、初めて本気でオレが…
「仁は…ひかりのこと好きなの?」
「……」
好き…か。
どうなのか自分でもわからないままだ。
「好きじゃないなら、俺ひかりにアプローチするんだけど?」
「…もしオレがひかりを好きだって言ったところで、お前は真っ向から勝負しに来るんだろ?」
「…まぁね!」
鹿男はそういう男だ。
ずるいことは一切しない。
最初はとんだチャラい野郎だと思っていたけど、実際は切実な男だった。
「まだひかりは生徒会に入ったばっかだし、あんまり混乱させるなよ」
「わかってる!
俺は生徒会の誰よりも女の子には優しいから!」
「知ってる」
鹿男のそういうところが羨ましくもあった。
ハッキリ相手に思ってることを伝えられて、優しくて…
ひかりだって十分鹿男に落ちる可能性だってある。
だったら…オレはなんのために今までひかりのこと考えてきたんだ…?
「なぁ鹿男」
「ん?」
「オレ…なんで今までひかりのことばっかり考えてきたと思う?」
気づいたらオレは鹿男に意味不明な質問をしていた。
鹿男は案の定笑っていた。
「ははは!何それ?
それは絶対ひかりのことが好きだからでしょ?」
「……」
オレ…ひかりのことが好きなのか?
女のためにここまでしたことなかったオレには、ひかりへの感情がまったくわからない。
「まぁ、その内気づくよ仁。
だけど負けないよ!」
「はいはい」
自身満々そうな鹿男を見て、少しモヤモヤとイライラが混じった。
ひかり…
ひかりのことを考えると胸の鼓動が速くなる。
その意味がなんなのか、まだオレは気付けなかった。