イケナイ狼君の××。


--2時間後


緊急手術をしたひかりは、なんとか一命をとりとめた。
手術室の前で待っていたところに、ひかりの兄達が来た。


「ひかりは!?」

「大丈夫なのか!?」

「どうなったんだよ!」


3人とも動揺していた。


「助かりましたよ。
1ヶ月くらい入院すれば治ります」


医者の言葉に安心した表情をする3人。
オレも安心した。

よかった…
ほんとによかった…

ちょっと経って、兄3人がひかりの病室を出たのを見計らってそっと入った。
未だ目を瞑ったままのひかり。


「ひかり…」


ベットの横にあるパイプ椅子に座ってひかりの手を握り締める。


「起きろひかり…」


そう言うと、ゆっくりひかりが目を開けた。


「ひかり!?」


名前を呼ぶと、ゆっくりひかりの視線がオレへと移る。

ひかり…!

安堵した瞬間だった。


「神風…さん?」


は…?

一瞬耳を疑った。


「なんでここに神風さんが…
私どうしてここに…?」


ひかりの言葉が耳に入らない。

神風さんて…
なんで仁って呼ばねーんだよ!


「おいひかり…
オレのこと覚えてるよな…?」

「は、はい…
私を助けてくれた神風さんですよね…?」


オレは驚きを隠せなかった。
ひかりはオレに助けられた時の記憶しかない。
そう解釈した。


「なぁひかり…
オレはお前の彼氏なんだぞ…?」

「え…?」


そのひかりの表情を見て、予測が確信へと変わる。

ひかりは…オレとの記憶がない…
しかも大事なところが…

それに気づいて、オレは病室を飛び出した。
そして扉の前で床に座り込む。

なんで…
なんで忘れちまったんだよ…!

自然と涙が溢れた。
どうしようもなく胸が痛い。
















--あれから数ヶ月…


ひかりが高校1年生になる季節がきた。
オレはあれからひかりに会いづらくなって、1回も会っていない。
きっとひかりはオレを忘れている。
だけどオレは忘れていなかった。
…忘れられなかった。


「はぁ…」


始業式の日。
オレは面倒で屋上でサボっていた。


「仁!!」


いきなり後ろからオレを呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると、そこには息を切らした鹿男がいた。


「どうしたんだよ鹿男」

「た、大変なんだ…!」


らしくねーな…
なんだ?


「なんだよ」

「ひかりちゃん…!
ひかりちゃんが…!」


それは久しぶりに聞いた名前。
オレが初めて惚れた女の名前。


「ひかりちゃんが…!
この高校にいたんだよ…!」

「は…」


頭が真っ白になる。


「1年1組にいるんだ!」

「……」


もうオレは…
ひかりを好きじゃねー…


「なにしてんの仁!
早く行こうよ!
ずっと会ってないんでしょ!」

「…いんだよ、もう」


オレは…ひかりを忘れる。





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