イケナイ狼君の××。
「…はぁ」
俺は1人生徒会長室で、今更昔のことを思い出す。
あの時はひかりのことを諦めかけてた…
オレが傍にいるといいことはねー…
それに、大事な部分だけ今もひかりはオレとの記憶を忘れる。
もう希望はねーのか…
そう思っていた時、鹿男がノックして部屋へ入ってきた。
「仁」
「ん…?」
真剣な表情の鹿男。
なんだか嫌な予感がした。
「あのさ…」
「…なんだよ」
「ひかりとコウ…付き合うことになったって…」
「……」
あまりにも早すぎた。
大方予測はしていたものの、こんなに早く付き合うことになるなんて思ってなかった。
でも…もうオレにはひかりを守れねーし…
昂之心なら安心して任せられる。
「なにやってんのさ仁…
このままでいいの!?」
「…うるせーな。
お前は自分の心配しろよ」
鹿男もひかりに惚れてんだろ…
「今は自分のことはどうでもいいよ!
このままじゃ…仁の努力が報われないじゃん!」
「…お前に何がわかんだよ!」
つい大きな声で怒鳴るオレ。
鹿男は目を大きく見開いていた。
「ひかりと初めて出会った時と同じことをひかりに試した…
だけどひかりは全部覚えちゃいねー。
ほとんど忘れてんだよ!」
「だからって逃げるの!?」
……
その言葉に何も返せなくなる。
「仁は誰よりもひかりを思ってきたのはわかってる…
俺の入る隙間もないくらい」
「鹿男……」
ふと思い出す。
ひかりを本気で思っていたあの時のこと。
だけど、今は…
ただ怖いだけだった。
またひかりに忘れられるのが…ただ嫌だった。
「鹿男」
「なに…?」
「今は無理だ。
ひかりは昂之心が好きで付き合ったんだ」
「うん…」
「それに今自分でもよくわかってねーんだ、ひかりへの思い。
だから…時間くれよ」
今の俺にはひかりを見守って、ひかりの幸せを祈るしかできない。
「それで仁がいいなら…」
「おう」
ひかり…
強引にしたひかりとの契約。
オレのしもべになること。
それももう、今日で終わりだ。
これからは…
昂之心の秘書だ。
ズキズキと痛む胸を押さえる。
「仁…
何回も言うけど、あの時の事故は…仁のせいじゃないよ」
「オレのせいだ…
アイツら、ひかりに彼氏ができたから突き飛ばしたんだよ!」
思い出したくない記憶。
ずっとあれからオレはこの記憶から逃げてきた。
「だけど…ひかりはきっと仁と仲良くなれて助かったはずなんだ」
「え…」
鹿男の言葉が理解できない。
助かった…?
ひかりが?
「ひかりが1人で苦しいところを一番初めに助けたのは仁なんだよ?
ひかりはきっと嬉しかっただろうね」
「……」
そう…なのか?
ひかりは…オレといて不幸だったって思ってねーのか?
「ひかりの記憶が戻らなかったとしても、きっと不幸だなんて思ったことないって言うはずだよ。
ひかりなら絶対そう」
「…あぁ」
「それにさ!
記憶が戻らないなら強引にでも戻しちゃえばいいじゃん!」
やっとわかった。
オレは何を勘違いしていたんだ。
ひかりは…オレを必要としてくれた。
オレに心を許していた。
なのに…守ってくれるヤツがいなくなって、ひかりはまた傷ついた。
なにやってんだオレ…
「鹿男」
「ん?」
「お前がそんなこと言うから、ひかりを奪いたくなってきたろーが」
「それでこそ仁様!」
「ハッ、なんだそれ?」
2人で笑い合う。
久しぶりに心の底から笑った気がした。
見守るなんてありえねー。
応援するなんてありえねー。
オレは…ひかりが欲しい。
また隣に置きたい。
「鹿男、そこまでオレに言ったんだ。
手伝えよ?」
「はいはい!
まったく横暴なんだから」
また新しい一歩をオレは踏み出す。
過去の弱い考えの自分から脱却した。
鹿男の言葉のおかげで。
「鹿男…サンキュな」
「どういたしまして!
しけた顔は仁らしくないからね!」
「まーな!」