イケナイ狼君の××。

記憶の欠片。


ひかりside


次の日。
仁に生徒会長室に来いと呼び出された。

なんだろう…?

仁のいる部屋の扉をノックする。


「入っていーぞ」

「失礼します」


中に入ると、仁がソファーに寝転がっていた。


「どうかした?仁」

「秘書の話なんだけどよ」


秘書の話…?
あ!


「お前、昂之心の専属秘書になっていーぞ」

「え…?」


いきなり言われてビックリする。

なんでそんなこと言うの…?

胸が少しズキズキする。


「なんで?」

「お前ら付き合ってんだろ?」


どうして仁が…!

なぜか痛む私の胸。
どうしてこうなっているのか自分ではわからなくて、少し動揺していた。


「元はオレの秘書になる予定だったけど、
付き合ってんなら一緒にいた方がいいだろ?」

「……」


いつもと違う仁の表情。
言葉使いもいつもの強引な感じとは違う。
少し寂しい気持ちにすらなってきた。


「でも…」

「いいから…行けよ」

「へ…」


すごく悲しい表情をする仁。

どうして…
どうしてそんな顔するの…?

ズキズキとさっきよりも痛む胸。
押さえても押さえても治らない。


「早く行け!」

「!」


大きい声で怒鳴られる。
ビックリして身体が反応した。

まるで私を突き放すみたいな言い方…

痛む胸を押さえながら、私は静かに生徒会長室を出た。

ドンッ


「いたっ!」

「おっと!」


部屋を出た瞬間、鹿男とぶつかった。


「ゴメンよひかり」

「あ、大丈夫…」


そのまま通り過ぎようとした時、鹿男に腕を掴まれた。


「鹿男?」

「ひかり…ちょっと話あるんだけどいい?」

「う、うん」


話ってなんだろう?

黙って鹿男について行った先は、書斎だった。
とても落ち着く雰囲気の場所で、時間を忘れそうだった。

こんなところもあるんだ…


「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ」

「そうなの?」

「覚えといてね?」


優しく微笑む鹿男。
書斎を見回すと、本は全部英語で書いてあった。

鹿男やっぱり頭いいんだ…!

感心していると、鹿男はコーヒーを淹れてくれていた。


「そこに座って?」

「うん」


2人で向かい合ってソファーへ座る。
なんだか安心してしまう。


「それでひかり…」

「ん?」

「仁の…ことなんだけどさ」


仁…

その名前を聞いた瞬間にドキッとする。
そしてさっきのことを思い出した。
あんな悲痛な顔をする仁を見たことなんてなかった私には、すごく衝撃的で忘れられない顔。


「ひかりは…昔事故にあったんだよね?」

「う、うん…」

「その時のことを詳しく教えてくれない?」


私は思い出せる限りのことを話す。
事故に合って病院に運ばれて、すごく兄3人に心配された記憶。

あれ…なんか忘れてるような…


「そっか…
仁と出会ったのって、中学校3年生の時だっけ?」

「うん…
イジメられてるところを助けてもらって…」


その後…どうしたんだっけ?
やっぱりなにか私忘れてるような気がする…


「それで高校2年生の時に再会した…ってこと?」

「そう…だと思う」


おかしい…
何かはわからないけど、すごくモヤモヤする…

その瞬間、昔の記憶がいきなりフラッシュバックした。


『ひかり…オレの女になれ』


っ!

いきなり頭に走る鈍痛。
痛みはどんどん増していく。

今の声…仁?


「ひかり!?」

「っ…」


あまりにも頭痛がひどすぎて、視界がだんだん暗くなっていた。




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