イケナイ狼君の××。


昂之心はやり切れないような顔をする。


「お前こそ、自分のものは他の誰にも取られたくないんだろ?」

「それがどうした…」

「じゃあなんでオレに奪いに行かせようとする?」

「……」


お互いに思っていることは似ている。
だからこそ、いつもの自分とは違う行動と言葉になる。
オレも昂之心も、ひかりを気遣って言っていることに変わりはない。


「らしくねぇよ、仁…」

「お前もな、昂之心」


オレ達は似ている。
不器用なところが。
だから昂之心が何を考えているかわかる。
きっと昂之心もオレが考えていることがわかるはずだ。


「昔仁とひかりが付き合ってたとか関係ねぇ。
ただ…お前がひかりから逃げてることが気に食わねぇ」

「……」


逃げてる?
オレが?


「仁のことだ。
ひかりがまた自分との記憶を無くすのが怖いんだろ」

「っ」


図星だった。

確かにオレは逃げてる。
だから昂之心に押し付けようとしていた。
最低だ…オレ。


「いつもの強気で横暴な仁はどうした」

「…わかったような口聞いてんじゃねーぞ」


沸々と怒りがこみ上げてくる。


「好きなヤツに忘れられる気持ちが、お前にわかるわけねーだろ!」


胸がえぐられるように痛い。
昔の記憶がオレを蝕んでいく気分だ。


「…言ったな」

「は…?」


フッといつものようにクールに笑う昂之心。


「好きなヤツって言ったろ?」

「!」


オレつい口走って…!


「いんだよそれで。
それが聞きたかったんだよ」

「なん…でだよ」

「仁とやっと張り合えるじゃねぇか。
それに、しけた面なんかお前には似合わねぇよ」


昂之心…

こんな状況にもかかわらず、昂之心はオレを気遣っていた。
鹿男からひかりと付き合ったと聞いた時は、少しだけ嫌いになりかけていた。
だけどやっぱり長く付き合ってきただけあって、どこか憎めないでいた。


「あースッキリした。
ったく、世話がやける奴」


またクールに笑って、昂之心は噴水庭園を去っていった。


「オレ…」


やっぱりひかりが好きだ。
諦めていたつもりだったけど、結局諦めきれていなかった。
それをまさか彼氏の昂之心に言われるとは思っていなかった。

確かに…このままじゃ生徒会長の名と、神風の名が廃るな!


「おっしゃ!」

「仁先輩?」


気合を入れたら、幸村がコーヒーを持って立っていた。


「幸村!
お前の作ったザッハトルテが食いてーんだけど!」

「仁先輩…!
は、はい!もちろんです!」


不本意だが…昂之心には感謝する。
サンキュ、昂之心…
これからは容赦なくひかりを奪いに行かせてもらうからな!



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