イケナイ狼君の××。
仁side
ひかりを2階へ送って、用もないオレは1人廊下を歩く。
文化祭の準備をしている生徒達の楽しそうな声。
それだけですごく嬉しい気分になる。
今回の文化祭は…
絶対成功させる。
何がなんでもだ。
そう心に誓っているオレは、今まで以上に熱心に文化祭のことを考えていた。
オレの中での一大イベントはひかりの花嫁大作戦。
みんながノってくれるか心配な部分はあったものの、なんとかすんなり事が進んでよかった。
ひかりも変わろうと頑張ってくれている。
最初に出会ったあの時より…
確実にひかりは成長した。
だからこそオレを苦しめる。
昔より綺麗になったひかりを見た時、胸の高鳴りが収まらなかった。
あんなに強引な事を言ってでも、ひかりを手にしたかった。
そう思っていたはずなのに…
途中で昂之心が出てきて計算が狂ったからと言って、ひかりへの思いを封印した。
そんな情けない自分に腹が立つ。
そして今、またひかりが欲しい。
オレのワガママで…
振り回してゴメンな。
届かないひかりへの思い。
だけどオレは色んな手段を使ってでもひかりを手に入れる。
それくらい…オレにはひかりしかいない。
そんなことを思いながら校舎の1階を歩いていた時、前から人影が近づいた。
オレは目を疑った。
「よ」
「こう…のしん」
ここにいるはずもない、昂之心だった。
オレはびっくりしすぎて身体が固まった。
「何でここにいるんだよ…」
「仁に話があるんだよ」
真剣な目で言われる。
こんな昂之心の表情は初めてだった。
元々こんなに感情がわかるヤツじゃない。
ひかりが昂之心を変えた。
そう思ったら少し胸が痛む。
「なんだよ」
「場所移すぞ」
昂之心は中庭の方へと歩き出した。
無言でオレも着いて行く。
昂之心とは話さなきゃいけねーと思ってたんだ…
今それが来ただけで。
二人で中庭に踏み込むと、驚くほど静かだった。
久しぶりに来た中庭は、なぜか居心地がよくて少し緊張がほぐれる。
何も言わず、ベンチに座った。
「…で、なんだ?
話って」
だいたい想像できるけどな…
「ひかりのことだ」
「おう」
「…仁、やっぱひかりが好きなんだろ?」
「!」
唐突に言われて目を見開く。
な、なにいきなり変なこと言ってんだ昂之心…!
「いんだよ、言って」
「……」
「聞いてんだよ。
早く答えろ」
しばらく沈黙が流れる。
言ったら昂之心とひかりの中を裂くことに…
いや、でも結局裂くことになるのか…
どうすりゃいんだよ!
頭の中で葛藤する。
そんなオレを見て、昂之心はフッとクールに笑った。
「わかりやすくなるな、ひかりのことになると」
「は!?」
「もう顔に好きですって書いてんぞ」
優しく笑う昂之心。
そんな昂之心を見て動揺を隠せないオレ。
「ひかりとオレに気使ってんだろ?
仁らしいっつうかなんつうか…」
「んだよ…」
「一つだけ言っとくんだけどよ」
「なんだ…?」
また真剣な顔に戻る昂之心。
「…次こそは、ひかりを幸せにしろよ」
「…は?」
一瞬昂之心の言っていることが理解できなかった。
ちょっと待てよ…
何言ってんだよ昂之心…
「それだけだ。
じゃあな」
「待て昂之心!」
昂之心はゆっくり振り向いた。
「なんだ?」
「お前…なんで今更オレにそんなこと…!」
「そんなん…ずっとひかりを見てきたからに決まってんだろ」
悲しい目で下を見る昂之心の表情は、今まで以上に寂しそうな顔だった。
「お前の事考えてるひかりをずっと見てきた俺だ。
仁しかいねぇって…俺もわかったんだよ」
「真っ向から立ち向かってこねーのかよ!」
なぜか怒りに変わるオレ。
「うっせぇよ。
ひかりの幸せを考えたらこの結論が出たんだよ」
「……」
そう言われて我に返る。
あぁ…オレは何を考えてんだ。
昂之心なりのひかりへの優しさなのに。
怒って…バカみてーだ。