イケナイ狼君の××。
昂之心side
「はぁ…」
少し気持ちが沈みながら、俺は自分の会計室へと戻った。
さっきの出来事が夢だったらいいのにと今更思う。
もう俺のそばにひかりはいない。
俺のためだけに笑ってくれるひかりも…
後悔し始める。
仁に渡さず、俺のものにしといた方が良かったのか。
だけどそれはひかりのためにならないし、ひかりの本当の幸せじゃない。
「クソっ…」
そんな葛藤をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
誰だ…?
「…はい」
「やっぱり落ち込んだ声してる」
「…姉さん」
優しい眼差しをしながら部屋に入ってくる姉さん。
ゆっくり俺の部屋のソファーへ座る。
「…コーヒー淹れる」
「いいよ、気にしないで?」
さりげない姉さんの優しい気遣いに少し涙が出そうになった。
「それより…ちょっとこっち来て」
「おう…」
言われた通り、姉さんの隣へ座る。
その瞬間、姉さんがいきなり俺を抱きしめた。
「!?」
「コウ…泣きなさい」
「え…」
唐突な言葉に動揺する。
姉さんの前で泣いたことがない俺は、どうしていいかわからないでいた。
「私の前で泣いたことないからどうすればいいのかわからないとは思うけど…
今のコウには涙を流す時間が必要だと思ったの」
「姉…さん…」
姉さんにそう言われた瞬間、すごい勢いで涙が溢れ出す。
自分でもビックリするくらい、自然に出ていた。
「コウ…」
「うっ…」
子供みたいに泣きじゃくる俺を、そっと優しく抱きしめながら頭を撫でてくれる姉さん。
「コウ…
この経験は絶対生きるよ」
「う…ん…」
「あんたはひかりちゃんと出会って変わったもんね?」
そうだ…
俺はひかりのおかげで変われた。
何もかも、ひかりの…
次々と溢れる涙。
だけどさっきほどの胸の苦しさはなくなった。
「ひかりちゃんはいい子だったね、すごく。
あんたにもったいないくらい!」
「う…っせぇよ…」
ふふふと笑う姉さん。
俺もつられて笑った。
「さ、コウ!
ケーキバイキングに行くわよ!」
「は…?」
姉さんの一言でピタリと涙が止まる。
「お腹空いちゃったの!
今日はやけ食いね!」
「姉さんがやけ食いしてどうすんだよ」
「うるさいわねー!」
今度こそ、ちゃんと笑顔に戻れた俺。
姉さん…サンキュ。
まぁ、直接こんなこと言えねぇけどな。
とことん今日は姉さんに付き合うと決めた俺は、スキップしながら鼻歌を歌う姉さんの後ろを着いていった。
ひかり…ありがとな。
好きだ…すごく。
もう涙は出なくて、素直にひかりを応援できる。
影から見守れる。
なんせ俺は…
ひかりの”親友”だからな。
「ちょっとコウ!
早く早く!」
「はいはい、わーったって」