魔血の継続者
中は明かりもついていないからか、暗く重い。
古びた資料が、黒地の毛足の長い絨毯に散らばっており、燭台や武器、ワイン棚などが適当に並べられている。
ただ、救いは窓が開いていることくらいか。紅い月が妖しくも綺麗に部屋の中を照らし、濁っているものの、まだ空気が入って来ている。
「はぁ……」
エルヴィンは小さく溜め息を吐き、閉めた扉を背にして身体を預けた。
軽く胸の下で二の腕を掴み、綺麗な紅い月を見据える。
「また、この季節が来たのね……」
何処かで同じことを言っていた男がいたが、心情は違う。
何より彼女の表情が、それを分からせた。
暗く、思い詰めた表情でありながら、何かを期待し、または絶望した──そんな表情だったのだ。
(今度こそ……勝たなければいけないわ。私のためにも、“あの人”のためにも)
少し肌寒い風を感じながら、エルヴィンは想い、迷い込んできた黒桜を白い手で掴んだ。
────瞬間、