そして、また
その表情のまま彼はこちらに近づいてくる。
「ぁっ…」
彼があたしの目の前まで来る。
教室にはあたしの小さな声が響くだけ。
「なに?」
山口は突き放すようなそんな声で聞く。
何って、なんだろう…
はぁ…自分の嘘つき。
なんだろうってわかりきってるくせに。
「あたしね行きたいお店があるの。」
あたしがいたって冷静にそう言うと彼は意味がわからないというような顔をする。
「暇なら荷物持ちになってくれない⁇」
これは素直になれないあたしの精一杯の誘いだ。
お願い。伝わって…
「……しょうがなねぇな」
彼は全てを見透かすような目をして言った。
よかった…伝わったんだ。
正確には伝わったかどうかなんて知らないけど、なぜかそう思ったんだ。
そしてこの時あたしは気づいたんだ。
あいさつだけ交わしてたこの男にあたしはかなり惚れている事を。
そう、山口涼太に本格的な一目惚れをした事に。