田中のくせに!!
「…き、急にどうしたの!?」
「ん?」
数歩前を歩いていた田中が、あたしの声に振り向いた。
「だ、だって一緒に帰る、とか…今までなかったじゃん?」
「あー…」
田中は少しだけ眉を寄せると
「アイツがいるからな」
深刻そうに呟いた。
「アイツ…?」
「…アイツだよ、兄貴!」
再び前を向いて、歩き始める田中。
「もし周防が一人で帰って、先にアイツがいたらどうすんだよ?
二人っきりだぞ!?」
「そ、そうだね…?」
そりゃ、田中がいなければ、あの部屋にはあたしと旭さん、二人っきりになる。
でも、それが今こうして田中と一緒に帰ってることと、どういう関係が…?
「…っだから!」
まるで意味が分かっていないあたしに、痺れをきらしたように声を荒げる田中。
「危険だろ!!!」
「危険…?」
なにが?
「兄貴は、昔っから女癖が悪くて…ミキさんと付き合いだして少しはマシになったけど、今でも浮気騒動絶えねーし。
とにかく、危険なんだよ!!」
田中は物凄く真剣な顔で旭さんの危険性を主張してるけど
あたしはイマイチ頷けないまま。
だって旭さん、全然悪い人に見えないんだもん。
危険っていうよりもむしろ、平和を絵に描いたような雰囲気だし。