ペイン
 マイさん

 散りて二度とは咲かずとも、炎の如き情熱は燃え散ることはない。マイさん詩的に影響されたのかもしれない。四つ目の方角に光はない、という表現は暗示的であり影のように忍び寄るものがあり僕は好きです。光がない方角だからこそ二人で五つ目の心臓の鼓動と共に互いに惹かれ、光を生み、愛を紡ぐ。僕はそう受け取りました。一から五までが出会いから結合までを暗示してると僕は思いました。ますますマイさんに惹かれ、その肌を、指を、頬に手を翳したい。出来ることなら手紙ではなく、温かみのある声を心奥に響かせて欲しい。願わくば、時間がない。あると思ったのは時間は錆びれ、消えてしまう。有限の時を無限にするには二人の共有が必要です。

                                  安東ツカサ 


 リンは、息を一つ吐き、吐くたびに心臓の音色が激しくこだまするのを感じた。ツカサが彼女の文面を理解していることに安堵と喜びを見出し、尚かつ時間の無限には共有が必要だというのにグッときた。みぞおちを抉らるような感覚だった。手紙の内容も自分の影と競争しているような感覚に似たものがある。一つだけ気になることといえば、時間がない。という記述だ。何がどう時間がないのだろうか。転校でもするのだろうか。両親の都合だろうか。彼に何かしらのアクシデントが生じたのだろうか。人生の正五角形が成立することはまずありえない。必ずどこからしらの点が欠けるものなのだ。いくら足掻いても、足りない何かを強く求めても、欠けた点を強く得ることはできない。風のように流されればいいのだ。そしてぴたりと消えるときがある。その終着が最後の点なのかもしれない。男と女を点と点とするなら、リンにとっての終着は、いつ、誰となのだろう。彼女はもう一度、文面を眺めた。

 ツカサ君

 私達はひかれあう、惑星のように雨粒のように。私達は反発しあう。磁石のように、肌の色のように。私達はふれあう、平和のように、湧き水のように。私はすれちがう、思考のように、正と悪のように。
 私がいえることはこれだけ。時間は作りだすもの。生み出すもの。時間がなくなるということはない。私達が存在する限り。
 ツカサ君に惹かれているのは事実です。それでも惹かれあった後が恐い。堕ちてゆくのは空か、私達か。
                                 宝条マイ


 次のツカサからの返事は一週間後だった。またしても屋上にいたリンの元に紙ヒコーキが飛んできた。その紙ヒコーキには今までにない強い意志が感じられた。幾分か風も強く吹いている。風がブラウスの襟元をかすめ、髪をさらった。リンは紙ヒコーキを開き、文面を読んだ。

 マイさん

 僕は、君にサヨナラの練習をする。決して混じり合うことのないサヨナラの練習を。手紙のやり取りは僕の命を繋いでくれた、僕の命を鎖を強固にしてくれた。不幸とは命がなくなることだと思った。しかし違った。不幸を知ることは怖ろしくはない。本当に怖ろしいのは、過ぎ去った幸福が戻らぬと知ること。でも、僕の幸福は滞留するだろう。こんなにも至福の時間を共有できたのだから。マイさんも共有していると思う。いや、僕の中ではリンとした二つの光輝く影のように、あなたの傍にいる幻想を抱いている。しかし、僕はサヨナラの練習をする。いつまでも、そう、いつまでも。
                                  安東ツカサ
                     
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