泣き星
「別れた方が、良いに決まってるよ……。その方が冬夜も向こうで、気楽に過ごせるでしょう?」
……向こう。
それは春が訪れたら俺が暮らしているであろう、こことは別の町のこと。
俺はあと2ヵ月ほど経てばこの町を出る。きっと桜が咲く頃にはここではない場所で、今とはまた違った生活をしているはずだ。
それは、そうなんだけど。
「別れたら気楽に過ごせるとか、そんなこと思うわけない。俺、遠距離になっても星羅と別れる気なんてねえよ」
「でも……」
「離れてても、俺は星羅の彼氏でいたい。どこに居たって好きなのに、それじゃあダメなのか? 星羅は俺と離れたら、付き合ってるのが嫌になんの?」
「違う! 冬夜のことは好きだよ! 離れたら嫌になるとか、そんなわけないっ……」
星羅は身体を離して勢いよく顔を上げると、俺の腕を両手でぐっと掴んで力強くそう言った。
頬に涙を流したままで俺を見つめる顔は初めて見るもので、驚くと同時に切なくなった。
今までずっと笑顔ばかりを向けてくれていた星羅を、こうやって泣かせている。そんな自分が無性に憎らしかった。
「……じゃあ、何でだよ。気持ちは一緒なのに、別れる必要なんてねえじゃん」
星羅に伝えるべきで、もっと気の利いた言葉もたくさんあるはずなのに、口から飛び出すのはそんな頼りない言葉ばかり。
きっと星羅が望んでいる言葉はこんなことじゃないのに、馬鹿な俺はそれを上手く伝えることが出来ない。