隣の部屋のナポレオンー学生・春verー
“パグを飼っているなら早く言え”
キャンパス・ライフ、と胸を高鳴らせていたものの、やはりそれは友人がいないと成り立たないものだった。
この大学は地元から遠いだけあって、かつての同級生や友人がいない。
そのため、一から作っていかなくてはならない。
……けど、現時点、あたしはボッチ。
周りは以前からの知り合いだったり、ツ○ッターでの絡みがあったりで、なにかと早々にくっついてる。
あたしが座っているのは教室の最後列で、しかも端のほうだからか全く人がいない。
……まずいところに座ってしまった。
これでは人を避けているようなものである。
どうしよ。
もうすぐ教授がくる。
人のいる前のほうまで移動できるだろうか。
がらりと教授がドアを開けて入ってくる。
すると、それとほぼ同時に、あたしの隣に誰かが慌ただしく腰をかけた。
よかった。
大学生活で初めて喋るであろう人の顔を、あたしはちらりと一瞥した。
が。
あたしは隣の人の顔を見て愕然とする。
真ん中分けの、赤毛交じりの茶髪。
青っぽい黒の瞳。
彼は受講開始ぎりぎりに着席したことに、安堵して肩の荷をおろしていた。
ナポレオン(あんた)かよおおお‼
あたしはシャープペンを折りかける。
別にはなからナポレオンが嫌いだったわけじゃない。
ただ、なんとなく。
『以後よろしくな。
曽根 緋奈子どの……?』
あの傲慢な笑みが、やけに不吉だった。
「お」
隣のナポレオンがあたしに気づく。
「なんだ、見たことのある髪型の女だと思えば、緋奈子ではないか」
彼は髪型であたしを記憶していたらしい。
あたしは三つ編みのサイド結びをしているから、確かにストレートやふわふわした髪の女の子と比べたら、見分けやすいかもしれない。
「お、おはよ」
すっかり生気の失せてしまったあたしの顔を、ナポレオンは違和感を感じたような顔で覗き込む。
「おい、どうした。
顔が青くなっておるぞ」
昨日の禍々しい雰囲気はどこへ行ったのやら。
今日のナポレオンはいたって親切だった。