隣の部屋のナポレオンー学生・春verー
「ところで緋奈子よ、先ほどは何故、あのような恍惚とした貌をしておったのだ?」
あたしへの仕返しが済んで、ナポレオンはすっかり機嫌を直したようだった。
数分前のことを水に流すように、明るい口調であたしにいう。
「って、そんなのナポレオンには関係ないじゃん」
「なぜ?」
「なぜって」
教えるべきことでもないし、人に言うのはなんだか恥ずかしい。
あたしが秘めているのは、そういうことだ。
「とにかく、秘密なこと」
「我が輩がジョセフィーヌに大量の手紙を送った時の貌と似たようなもの、というたな。
もしや、色恋でも絡んでおるのか?」
ーーーぎくり、とする。
自分もかつて熱烈な恋心を抱いたことがあるだけあって、この時のナポレオンは鋭い。
「……悪い?」
あたしはおずおずと自白する。
するとナポレオンは、笑うでもなく貶すでもなく、目を丸めただけだった。
「驚いた、本当にそうだったのか」
あてつけで言ったんかい。