隣の部屋のナポレオンー学生・春verー
がくりと首を垂れるあたしに、ナポレオンはさらにこう続けた。
「意外だな。
お前がそういうものに興味があるとは思わなかった」
「どういう方向に興味があると思ってたのよ」
「男に色情を抱くような女には見えん、ということだ」
「失礼ねっ」
逆に恋愛対象が男性以外だったら、あれじゃん。
レズになっちゃうじゃない。
「だが、お前のような女に気を持たれる男というのも、なかなか興味深いな。
……で、どんな男なんだ?」
「お前のような女って……」
どういう女のことよ、と言ってやる。
するとナポレオンは、ふむ、と顎に手を当ててせ、指を折って数えた。
「小生意気でなにかとしっかり者で、恋人か友人かと言われると、なんの躊躇いもなく友人を選びそうな、やたら小ざっぱりした女のことだ」
出会って数日という付き合いの浅い隣人に言われたくない。
「あんなにいい奥さんを切り捨てたような男には言われたくないわよ」
「緋奈子よ、あれは過去のことだ。
我が輩の名言にはこうあるぞ。
“愚人は過去を、賢人は今を、狂人は未来を語る”とな」
ナポレオンはそう言っておきながら、なぜか“過去に自分が言った言葉”を長々と語っている。
ナポレオンはあたしを“愚人”と言いたいらしいが、その名言を語ったせいで、自分も愚人のひとりになってしまっているということに気づいていない。
あの、ナポレオン?
そっちも墓穴にはまっちゃってるけど。
そう言おうと口を開くが、その寸前に、ナポレオンが肘を立てて、
「それに、だ」
と遮った。
「ジョセフィーヌのことは、あまり思い出させるな」
ナポレオンは遠い目をして言った。
なにやら、今までとは違って深刻そうである。
「ああ、それと。
先ほどの答え、まだ聞いておらんぞ?」