隣の部屋のナポレオンー学生・春verー
窓の外の芝生に立っている先輩は、立ち姿も笑顔も優雅だった。
ナポレオンと同じことを言うつもりはないけれど、確かにケータイ小説に出てきそうな人だ。
クールというよりは、ふわりとした美貌だった。
「っあー。やっぱかっこいい」
「そうか?そうは思わんが……」
ナポレオンは面白くなさそうな眼差しを、芝生めがけて放っている。
そりゃあ、男がこんなふうだったら、こっちがびっくりするけれども。
「まあ、それはお前の勝手か。
好きというからには、やはりアピールはするのだろうな?
緋奈子よ」
「アピールって、例えば?」
「愛してる、とか。
結婚してくれ、とか。
だいたいそんなとこだ」
……それはナポレオンがジョセフィーヌさんに送った手紙の一部を抜粋したセリフではないだろうか。
「そこまでは、まだ言わないわよ」
あたしは赤面して頭をふたつ振る。
「だいたい、あの先輩からしたら、あたしって赤の他人だし……」
「覚えてくれているわけなどない、と?」
「うん」
「つまらん女だな」
ナポレオンの言葉には容赦がない。
思ったことをすぐ言葉にしない日本人とは違い、彼らは正直にできている。
「へえ……そう。
つまらないってなによ」
「つまらん女は嫌われるぞ、緋奈子よ」
「それはナポレオンの感覚でしょ?」
言い返すが、ナポレオンはスマートフォンを触るばかりで返事をしない。