隣の部屋のナポレオンー学生・春verー
「別に自分のことではなかろう?」
「まあ……」
「なら、よいではないか」
ナポレオンは肩の力を抜き、弁当箱の蓋を手元に置く。
彼の弁当箱に入っていたのは、明るい小麦色の物体だった。
四角に折り畳まれた薄っぺらいものを、弁当箱の中に詰め込んでいるらしい。
なんだか、ホットケーキの色に似てる。
「なに?それ」
あたしは、先ほどまで頭の中を蝕んでいたもののことなどすっかり忘却し、ナポレオンの弁当箱に視線をやる。
「なにって、クレープだが」
クレープ?
ナポレオンはクレープだと言ってるけど、全くもってクレープには見えない。
クレープといえば通常、円形の薄い生地にクリームや果物を乗せ、それを手巻き寿司のように巻いたものだ。
けれどナポレオンのいうクレープは、どちらかというとホットケーキに似てる。
「本当にクレープなの?」
「そうだと言っておろう。
ていうか、むしろこれがクレープでなければ、なんだというのだ」
幾重にも重ねられた薄っぺらいクレープ生地を、ナポレオンは一枚はがし、もそもそと口に運んだ。
弁当箱の中には、クレープ生地以外に具という具は入っていない。
ナポレオンは、わずかに甘い生地のみを食べている。