隣の部屋のナポレオンー学生・春verー
それから3ヶ月もの間、ナポレオンは“ビョウトウ”と呼ばれる真っ白な施設で過ごすこととなった。
ビョウトウの者たちに話を訊いたところ、自分は“ミドウ・アキラ”という名の“日本人とフランス人のハーフ”であり、母親がフランスなのだという。
当時の御堂暁の年齢は11歳。
ナポレオン自身は51歳で死去したし、死ぬ前よ顔もそれなりに老けていたが、鏡をみてみれば、そこには見たこともない少年の顔があった。
御堂暁の父親は病持ちで、すでにこの世を去ってしまい、母親が女手一つで育てていた。
しかしある日、学校発の遠足帰りのバスに乗ったところ、たまたま停まっていたバス停に、暴走車が突っ込んできたのだそうだ。
まだ20歳にもならない、若造の飲酒運転による事故だった。
その暴走車はバス停に突っ込み、そして御堂暁の乗るバスへと激突した。
幸いにも死者はいなかったが、話によれば、いちばん重症だったのが御堂暁らしい。
そしてやっと目が覚めたと思えば、自分のことを「ナポレオン」と言い出す始末。
これは記憶喪失か、もしくは記憶障害の類と思われた。
御堂暁が目を覚ますなり、真っ先に母親が駆け寄ってきた。
『アキラ、大丈夫?どこも痛くない?』
おい、誰だこの女は。
御堂暁の姿になったナポレオンは、お構いなしにそう言ったらしい。
当然、母親は悲しみに打ちひしがれて、当分は涙し続けていたという。