落雁

「ねぇ、これ食べるよりも、寝た方がいいんじゃない?見掛けによらず、相当からだにきてるみたいだし」
「嫌だ!食べる!!」
「…そう」

思い切り否定すると、司は苦笑しながらお皿を机に置いた。
林檎の甘い香りが鼻を擽る。

そうだ、風邪を引いた時には昔から林檎のすりおろしって決まってた。
いつもふざけている母さんも、あたしが熱を出すとずっとそばに居てくれるし、あたしは風邪を引くのが嫌いじゃなった。
だから、そのときに食べる思い出が強い林檎は、嫌いじゃないのかな。

「はい、あーん」
「?!」

目の前にスプーンが差し出される。
見ると、馬鹿にするように笑っている司の顔。

「いい、いい!!自分で食べれる!」
「いや、無理しない方がいいよ。あーん」
「馬鹿にすんな!!」

けらけらと司は笑っている。
こいつ、とにかくあたしをいじりたいだけなんだ。

「いいじゃん、1回やってみたかったんだよね」
「…」
「あーん」

差し出されたスプーンを咥える。
冷たい林檎が口に流れて、甘い香りと蜜の味が広がった。

「こどもみたい」
「自分でやっておいて!」
「うそうそ。新鮮で面白い」

司は楽しそうに笑った。
調子に乗って、もう1度スプーンを手に取るから、あたしはそれを奪った。

「自分で食べる!」
「えー、けちー」
「けちじゃない!!」


林檎を食べ終わって、一息つく。

満腹とはさすがにいえないけど、小腹は満たされた。


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