落雁

「今日ね、辰巳さんと賀奈子さんとご飯食べたんだよ」
「え」

振り向くと、司が机にねそべって笑っていた。

「弥刀ちゃん居なかったから、変な感じだったけど」
「なんで?」
「僕も京極家の一員になったみたいだった」

思わず眉が寄ってしまった。
こいつ、あたしが気にしている“跡継ぎ”のワードをさりげなく匂わせてきたな。

「あ、いや。そういう意味じゃなくて」

あたしの不機嫌に気付いたのか、司が慌ててフォローする。

「辰巳さんも賀奈子さんも、あんまり深く知らない僕に対して、本当の子供みたいに接するからさ、びっくりした」
「うん、2人はそう言う人だよ」

まるであたしが褒められているみたいで、悪い気がしない。
ころっと機嫌が変わったことがおかしかったのか、司はまた笑う。


「ねぇ、弥刀ちゃんは僕を知りたくないの?」

どきりとした。

こいつの言っている事が、分かった。

「この間、僕に聞きたかったんでしょ?僕がどれくらいの実力を持っているのか、どんな経験をしてきたのか」
「いや、経験は知らないけど」

口篭る。
確かに、ずっと気になっていた。
結局、聞こう聞こうと思っていて、聞けなかったんだ。


実力重視の父さんが、いきなり普通の男子高校生を京極家の重大な跡継ぎにする訳がない。

司が実力を持っているから、この家に来たのは確かなんだ。

だけど、それはどれくらいのものなのか、あたしは知らない。


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