落雁
「…しりたい」
そう言うと、司はにっこりと笑った。
なんだか手の平の上で踊らされているような気がして、どうも気が進まなかった。
「素直で可愛い」
「…やっぱ取り消した。風呂入ってくる」
あたしは向きを変えて、風呂場に向かう。
「あはは、嘘だよー。まぁでも、また今度ね」
「…」
大きな手の平をひらひらとして、ふざけてそう言った。
こっちは結構、本気だったのに。
やっぱりこうやってはぐらかされるんだから、司はどうも気に食わない。
逆に、怖い。
実力を知らないから、本性を知らないから、掴みにくくてしょうがない。
本当に、なんで父さんは司なんかに目を付けたんだろう。
実力はどうか知らないから、そこだけ除外してみると、ちゃらんぽらんな男だ。
部活は来ないし、今日は学校休むし、熟女好きだし、どこがいいのか分からない。
「…いたたた」
シャワーのお湯が額の傷に直撃した。数秒悶絶する。
あまりにも怪我した実感がなくて、いつも通りにシャワーを頭から被ってしまう。
絆創膏から染み出る水が傷を抉る。
仕方無い。消毒だと割り切るしかない。
それより痛いのは肩だ。
父さんが「五十肩つらい~四十肩つらい~」と毎日のように言っていたのを思い出して、今はちょっとだけその気持ちが分かった。
父さん、あたしは十六肩だよ…。