落雁
きみは
□ □ □
特に何もしていない朝だった。
早朝すぎるモーニングコールで僕の目は覚めた。
机の上に放り投げていた携帯を拾い上げる。
無機質に並んだ数字を見て、おおよそ誰からの着信なのか分かる。
「…はい」
『司!!!てめぇ、出るのがおっせぇんだよ』
「…やっぱりレイジか。何時だとおもってんの?まだ早いでしょ」
『立派な社会人ならとうに起きてる時間だっつの。それより、いい情報があるんだ』
「情報?」
僕はソファに腰掛けた。
まだ外は薄暗いながらも、着実に日は昇っている。
寝ぼけ眼でそれを見詰めていた。
『おう、この間、カイトがひったくりヘマしただろ?邪魔した女が見つかったんだよ』
寝ぼけていた頭ででも、しっかりと話が理解できた。
「…へぇ、どんな?」
『黒髪で、気性が荒い。マサがぼこぼこになってた』
「マサがその女を連れてきたんだ」
『おう、そうだ。コンビニで見つけたらしい』
僕の中でその“女”が誰なのかは明確だ。
「へぇ…案外簡単につかまったね」
『今から全員に召集かける。…おまえは今回も来ねぇのか?』
答えは1つだ。
「いくよ。まってて」
『はぁ?!まじで!珍しいなぁ』
最後まで聞き終わらないうちに、電話を切った。
弥刀ちゃんだ。
弥刀ちゃんが追いかけていたひったくりが、僕の知っている男だと気付いた時、うすうすこうなるとは思っていた。
今日なんだ。
今日、弥刀ちゃんは僕の秘密を知るんだ。
あんなに眠かった目がいつの間にか冴えていた。
どんな顔をするんだろう。
絶対、殴られる自信はある。
僕は立ち上がった。
少し早く行かないと、それこそ弥刀ちゃんの命がもってるか不安だ。あの子は無駄に暴れるから。
いやでも、ぼろぼろになっている弥刀ちゃんもレアだし、嫌いじゃない。
まぁ、仮にも女の子だし、早めにいってあげないと。