落雁





熱の籠った目を見て、あぁ、僕はこれが欲しかったんだと実感した。

始めは戸惑っていて、焦ったような色。
だけどすぐに眉間に皺が刻まれていく。眼光が鋭くなっていく。


おこってる、

んだと思う。


この子の狂気にはぞくぞくさせられる。

さっきまで驚いて見開かれた目は、今はもうない。人でも殺せそうな険しい目つきで僕を睨んでいる。


「おまえ、ここに精通してんのか」


あぁ、やっぱりきみも、おなじ。
辰巳さんの娘でも、所詮は正しく生きるとこんなもんなんだ。


そうやって軽蔑の壁を作るんでしょう。
きみの目だけが他の奴らと違うんだ。
あとは、みんな、おなじ。


口を挟んだレイジに一喝する弥刀ちゃん。
レイジですら物怖じするその声は、まさに本物だ。

ただ、僕は真実を言うだけだ。

「司、答えろ」
「リーダーかどうかは知らないけど、僕は昔からここが居場所だよ」

弥刀ちゃんの表情が、みるみる内に曇っていく。

僕は何も、誰も騙していない。ただ、このことを言わなかっただけ。
言う必要も無かったし、聞かれなかったし。

だけど、信念の塊である弥刀ちゃんが、どんな顔をするのかを待っていた。

だから今日まで、今日を待って、黙っていた。


眉間に皺を寄せたままの弥刀ちゃんが、物凄い勢いで僕の胸倉を掴んだ。

いつもおよそ冷静とは言えない喧嘩の仕方をするけど、今回は別ケースのようだ。
そう、こんな情熱的な人間が弥刀ちゃんって人間なんだ。
僕は妙に納得した。

「おいクソアマ!!その汚ねぇ手を離せ!」

弥刀ちゃんの肩を引いた男にかっとして、弥刀ちゃんはそいつを殴った。
見事なストレート。

そして、はっとしたかのように顔を上げた。

「ご、ごめん…」

僕はその言葉を聞いた瞬間、どうしても笑いが堪えられなくなった。

笑っている僕に、睨んでいる弥刀ちゃんに、青ざめているみんな。

どう考えたってこんな状況、楽しむしかないじゃないか。


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