落雁
□ □ □
冷たい空気が部屋中に立ち込めている。
司は無表情で座っているだけだった。
まるで出会った時のような、空っぽの。
「お前、こうなること知ってたんだろ」
ゆるゆると頭を上げる司。
その顔に表情はない。
ゆっくり口を開く。
「…なんのこと??」
「とぼけるな、引ったくりだよ。お前のお仲間さんに、弥刀が巻き込まれただろ。正直に言え」
司は何も言わなかった。
視線を泳がせることもなく、ただ外を見ている。
「…弥刀ちゃんは、違うと思ったんだ」
「…違う?」
「辰巳さんと同じだと思ってた。他の奴らと違うと思ってた。それを知りたかった」
そこではっとした。
こいつは、この子供は、司は、期待していたんだ。
空っぽな自分に、何でも持っている弥刀を当てはめようとしたんだ。
「…弥刀ちゃんを巻き込んでごめんなさい。僕、やっぱり当主とかそう言うの無理かな。他の人紹介するし、もう僕はやらない。今までお世話になりました」
司は立ち上がった。
待ってくれ、待ってくれ。
また、そんな顔をしないでくれ。
せっかく、子供らしい顔をするようになったのに。
「つか、…」
司はそのまま部屋を出ていってしまった。
俺の今までが、崩れていった気がした。
どうしてそんなに不器用なんだ、司。