落雁
「それで司は見ていないんだな?」
「みてねぇって。なにー、あいつ探してんの?」
「そう、探してるんだよ」
ごっつは面倒くさそうに溜め息をついた。
冬だというのに、彼の額には汗が滲んでいる。
「しっかしお前、大丈夫か?肋骨ヒビってんだろ?」
「ヒビだけ。歩けるし。笑うと痛いけど」
ボクシング部は本日、ランニング。
あたしは1階廊下の窓を開けて、ごっつを捕まえたところだ。
「弥刀っち最近学校来てなかったからよー、心配してたんだぜ」
「原因は肋骨にあり」
「だな」
「練習中引き止めてごめん、最低2週間は部活でれません。」
「おう!了解!早く治せよ」
それだけ言って、ごっつは笑顔でランニングに戻っていった。
その背中をぼんやり眺めて、あたしは窓を閉めた。
あぁ、あたしも早く体を動かしたい。入院中運動がしたくて堪らなかった。
司は学校に来ていない。
確実に来ていない。
ならば。強行手段を取るしかない。
まずは、司の家から攻めることにした。
現在扉の目の前。しかし、いくらチャイムを鳴らしたところで変化は無かった。
居留守なのか、はたまた本当に居ないのか。
セーラー服と寂しい防寒具だけでこの冬を歩き回るのは馬鹿だったかもしれない。
それに、絶対安静とまで言われたのに。
普段の生活をするには何の苦も無いが、腹に力をこめると痛い。骨が軋むような痛さがある。
まぁ、ずっとここに居ても仕方ない。
あたしにはあと1つ、手段がある。
ここの家から司の“お友達”の住家はそう遠くない。徒歩15分ってところだ。
あの金髪、レイジって男なら知っているはずだ。司の居場所を。