落雁
「…普通じゃない弥刀ちゃんと仲良くできるのは、君も普通じゃないからだよ」
「なにそれー!まぁ、否定はしないけどさー。あれだよ、自分の事を悪く言う奴は、これから先もずーっと悪く言うからさ、付き合わなかったらいいんだよ。そっちのほうが、気楽でしょー?」
この子は簡単に言ってくれた。
気にしてる方が馬鹿じゃん、と。
弥刀ちゃんがこの子を大切にしている気持ちが少しだけ分かった。
きっと、こういう性格で、こういう考えだから、彼女と弥刀ちゃんは仲が良いんだ。
「じゃあさ、神谷くんは何なの??」
「え?」
「弥刀ちゃんのお兄ちゃんってわけじゃないでしょ?弥刀ちゃんの家と関わりが深いらしいけど」
メルちゃんは僕の目を見た。
同い年じゃないって気付いている。
まるで、弥刀ちゃんに悪影響を及ぼす、害虫じゃないかどうかを見定めるような。
「別に、弥刀ちゃんに悪い事はしないよ。ただ、弥刀ちゃんのお父さんに世話になってるだけ」
「ほんとーにー??なんだ、つまんなーい。そういえば、何で警察に会うと面倒なの?」
「あぁ、あれは素直に面倒なんだよ。別に捕まるようなことはしてない(ばれてない)けど、仕事が仕事なだけに、どうも」
表情をけろりと変えて、笑い出すメルちゃん。
「まぁきっと、神谷くんのことだから大丈夫だよね」
彼女は前を向く。
パトカーの赤いランプがちらちら見えている。
「どんな設定だっけ?」
「弥刀ちゃんが負傷して、近所のやさしいおじさんAが病院に行ってる設定」
「僕は?」
「車を追っかけて2人を助けた超人高校生」
ふわりと彼女は笑った。
確かに、クラスの男子が騒いでるのが分かるくらい、可愛い顔立ちをしてる。
「神谷くん、弥刀ちゃんの事大好きなんでしょ」
「きみって性格悪いよね」
「よく言われる」
柔らかい笑顔の裏に、こんな鋭い性格が隠れていることを、いつか言いふらしてやろうと思った。