落雁

「…ちがう」
「え??」

頭が整理できていないのに、口が勝手に動いていた。


「司が、あたしを守るんじゃない」

やばい、何を言っているんだ。
整理できていないのに、言葉が勝手に出てきてしまう。


「あたしが司を守りたいの」


そう言った瞬間、頭が真っ白になった。

今、あたしはなんて言った?


あたしが司を守る??

そんなことを考えたことが1度もなかったというのに、何でそんな言葉が出てきてしまったんだ。

「ななななななななななんでもない!!!!」

あたしは思わず立ち上がった。

司はきょとんとあたしを見上げている。

そりゃそうだ。あたしだって、自分が何を言っているか分からない。

「それは告白なの??」
「はぁあああ?!ち、ちが」

あたしを見上げたまま、司はあたしの足首を強く引っ張った。

「う、わ」

あたしは尻餅をついた。どすん、と情けない音がする。

「ったいな!!な、に、す」

そのままずるずると足首を引っ張られる。

されるがままになって、司との距離が近くなった。

なんだ、この状況。

「つ、かさ」
「弥刀ちゃんは僕のことが好きなの?」

どきりとした。
その衝撃で、自分が今どんな体勢になっているのか忘れてしまう。
いかん、これは司の作戦だ。

あたしの足の間には、司の胴体。司の足の間には、あたし。
近い、近すぎる。そして、目も逸らせやしない。

「あの、ちか…い…」
「こっち向いてよ」

まっすぐ司が見つめてくる。いつもの笑顔はない。調子が狂う。
あたしは今、どんな顔をすればいいのだろう。そして、どんな顔をしているのだろう。

「僕は、弥刀ちゃんのことが好きだよ」

がしりと頬を掴まれる。完全に目を逸らせない。

「ぜんぶ、好き。僕のにしたい」
「ま、まって」
「弥刀ちゃん、僕を見て」

どうにか逸らしていた眼球を司に向けた。
調子が狂う。ほんとうに困った。

「…わかんない、ほんと、わかんないんだよ。…ただ、あたしは司を守るほうで居たい。そっちのが、あたしらしい。それしか、わかんない。いや、それすらもわかんないかも」
「わかんないって??」
「だから、」

視界が真っ暗になる。
司の長い睫毛が見える。

この感覚は、知っている。

次に触れるのは、温い唇なんだ。

あたしの頬を、優しく撫でる。

「つか、」

驚いて、顔を逸らす暇も無かった。

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