落雁
どこの部屋に居るんだよ。何階行けばいいの?
適当に1階をぶらぶらしていると、エントランスが見えた。人が居る。
そっとそこに近づくと、“典型的なヤンキー”がそこに居た。
特攻服着てる。背中にかっこいい刺繍入ってる。若干中2の香りがする。
「ねぇ、アンタ」
声を掛けられて、びっくりした。勢いよく後ろを振り返る。
「あ、この間の」
女だった。この間、我が家で揉め事を起こしてくれた女だ。
前回と違ったのは、その顔が怪我だらけだったことだ。
「…顔、どうしたの」
「顔だけじゃないわよ。指折れちゃったし。あんたが邪魔してくれたおかげで、このザマ」
高い声でひきつったように笑う。
「司を刺せって言われてたの。知ってるでしょ? 失敗したら、こんなんなの」
「女なのに?」
「関係ないよ。ここは。役に立てなかった私が悪い」
へらりと笑う。
右の小指に包帯が巻かれていた。
「あなたは司の彼女??」
あたしは聞きたいことを聞いてみた。
が、急にエントランスのほうが煩くなる。振り返った。
人がたくさん居る。集まっている。
何??何が起こったの?
あたしはエントランスに走った。女が止める声も聞こえなかった。
「タツル!!!」
聞こえたのは、その単語だった。
背伸びしても、エントランスの奥が見えない。ライブ会場みたいだ。
前の席の人が背が高いと、こうなる。
「おい、田舎女」
首根っこをつかまれ、後ろを振り返る。金髪だった。
「何があった??」
「奥、奥。司がタツルやった」
「は?見えない」
あたしは無許可で金髪の背中によじ登る。
「おいてめっ、図々しいな」
頭1つ分高くなって、ようやく広いエントランスの奥のほうが見えた。
なにあれ。
人が倒れている。1人2人じゃない。
真ん中に立っているのは、司。特攻服に囲まれてて、随分ラフな格好をしている司は目立って見えた。
誰かの胸倉を掴んだままだ。そいつは動かない。死んだみたいに動かなくて、掴まれた胸倉を軸に上半身が浮いている。
「見えただろ??」
「司1人で?」
「そうらしいな。終わりがけに来ちまった」
司は動かないそいつに目線を合わせて、なにやら喋っている。
まるで大人が子供を宥めているみたいだった。