落雁
「ま、いいや。後で聞くよ。ここから出よう」
司の後ろには金髪と、あと1人知らない男が着いてきていた。
視線を前に戻すと、女が居なくなっている。
背中を押されて、あたしはマンションから出た。
□ □ □
「なんで僕があそこに居るって分かったの??」
家に戻った司は、明らかに不機嫌だった。
金髪のバイクを司が運転して、その後ろにあたしが乗った。
バイクを運転できるのかと一瞬驚いたが、思い出せば司はあたしより年上だったことに気付く。
司は、司の部屋の出しっぱなしの布団の上に寝転がって、あたしを睨むように見上げている。
「スーパーで金髪に会って、司があそこに居るって知った」
「…なんで来たの??」
「なんでって…、普通、1人で行かないだろ。危なすぎる」
司はあたしを睨むのをやめて、声を上げて笑い始める。
「なにそれ、馬鹿じゃないの」
司はだらりと布団の上に腕を伸ばす。
「は?何が?」
「僕が、危ないって?」
「…当たり前だろ、司だって人間なんだから、数に敵うわけがない」
司の黒い目があたしを覗き込んだ。
「…違う。危ないのは、僕じゃない。弥刀ちゃんだよ」
司はむくりと起き上がる。
「あたしが危ない??」
「…弥刀ちゃんは女の子だよ」
その言葉を聞いた瞬間、うんざりした。
あぁ、またそれか、って。
「…あたしは女だよ、違いない。だけどなに? 女だから弱いの?男だからって何ができるの?最終的な決定権は男であって、選ばれるのも男だ。だけど何? 悪いけど、その後続く言葉なんて聞き飽きた。もっと自分を大切にしろって?」
思わず笑ってしまう。
父さんも、司も一緒のことを言う。
大切にしてくれているのは分かるんだ。大切にしているから、あたしに危険なことをしてほしくない。なるべく安全に過ごして欲しい、とあたしが望む場所から遠ざけようとするんだ。
「もっと自分を大切にして、どうなる??一生あたしは父さんや司に守られていくの?あたしは残念だけど、普通の女の子じゃないみたい。それじゃ、気に食わないんだ」
司は意外にもにこりと笑った。
「いいよ。僕はそんな弥刀ちゃんが好きなんだ。だけどね、度が行き過ぎるのは話が違う」
「あたしは強い」
「知ってるよ、そこらへんの男よりは強いよ」
「…なにが言いたいの」
「弥刀ちゃんは、僕には勝てない。言い方を変えれば、僕にも勝てない」
気付いたら、司の胸倉を掴んでいた。
「…喧嘩売ってるってことでいいよね」
「いいよ」
司はあたしの目をじっくりと見た。