落雁

「…でもね、痛いのは嫌なんだ」
「は?」
「僕は、平和主義者だから」

今までの司の所業を思い出す。血だらけで笑っていたこいつが、何を言っているんだ。

と、気付いたときには胸倉を掴んでいた手を握られる。
あたしの冷えた手に、温い手が重なった。

「…僕から逃げられる??」

みちりと手首に力がかかる。
自然と司の胸倉から手が離れた。

細くて長い指が、しっかりとあたしの手首にはりつく。

ぐ、と腕を引いても司は動かない。
代わりに腕が痛くなる。

「ちょ、」

手首を掴まれたまま、後ろのほうに押された。
布団に背中がつく。

「なに、す」

のしりと腰に重いものが乗る。
原因は司だ。

腰に跨るみたいに、司は体重をかける。

「…ねぇ、卑怯だ」

司はまっすぐあたしを見下ろした。
司の髪が触れそう。

「えぇ、卑怯?なにが?」
「力比べで勝てる訳ないじゃん、」
「弥刀ちゃんは、いつも勝てる前提で喧嘩してるの?」
「…や、ちょ、司!!!やめろ!!」

司の温い唇が首に這う。

ぞわりとした。


「つ、か」

司の左手だけが、あたしの両手を束ねた。
骨が軋む。

動かない。ぴくりとも、指の1本でも動かせない。
こいつは、片手なのに。

「っ、やめ」

空いている右手が、あたしの服の中に滑り込んできた。
脇腹を撫でられて、思わず身を捻る。

「…やっ、めろ…、司」
「弥刀ちゃん」

耳元で甘い声がする。
息がかかって、背筋がぞくりとした。

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