落雁
「弥刀ちゃんは弱いよ」
司に抱き締められる。
冷えた体を溶かすみたいな。
「…自分の弱さを知らないから、一生弱いままだよ」
まるで、あたしを説得するみたいだった。
「…あたしが好きなんじゃないの」
「え??」
「なんでそんな、嫌いになることばかり言うの」
司の肩に顔を埋めながら、あたしは言った。
随分厚かましい発言だ。
自意識過剰で、自分に酔っている、子供みたいな。
「好きだけど、今の弥刀ちゃんなら部長にとられてもいい」
その割には、あたしを抱き締めているけど。どういう考えなのか、あたしには分からなかった。
「…なんで火緋のとこに行ったの」
「これ以上、悪さしないでねって伝えるつもりだったの」
「…結果は」
「勿論、承諾してくれた」
あたしもこの目で確認した。
あの状況で、司が負けたなんて思う人は居ない。
どこにも非の打ち所がないんだ。
だから、悔しい。
「…嫌いだ」
「僕も今の弥刀ちゃんは好きじゃないって」
「じゃあ離せばいいじゃないか!!!」
「…まだあとちょっと」
□ □ □
日が経って、あたしはごっつにちゃんと返事をすることにした。
だいぶ時間は経ってしまったけど、ごっつは怒らず聞いてくれた。
ごっつをそういう風に見ることはできないって。
ごっつは笑った。
今まで通りでいこうって。
少し、安心した。よかった、ごっつでって。
完璧に元の関係に戻ったわけじゃないけど、元の関係に近くはなった。
生まれて初めての告白の返事、ごっつでよかった。
そして、あたしにはもう1つ問題がある。
司だ。
司が火緋に乗り込んだあの日から、彼を見ていない。
家にも居ないし、学校も来ない。どうやら、自分の家にも居ないらしい。
この2週間くらい、あいつは行方知れずなんだ。
2週間も学校休むって、相当だぞ。クラスのみんなも心配している。
あたしには確証がある。これは、絶対に京極が関わっている。
昨日、父さんに詰め寄ったら、曖昧な返事が返ってきた。
父さんは嘘が苦手だ。すぐに分かる。顔に出るんだ。
粘り強く説得したら、司の居場所を簡単に吐いた。
そして、今夜連れて行ってもらうことにしたんだ。
「…お嬢も着いてくるんですか」
「うるさいな、悪いかよ」
「いや、そう言うんじゃないんですけど」
運転席には三郎。あたしは助手席で窓の外を眺めていた。
サブは苦虫を噛み潰したような顔をしている。