落雁

「え…っと、逆に…何も知らされてないわけ?」


神谷司は立ち上がる。すらりと長い脚が伸びている。

「はぁ…?」

どういう事だ。こいつの言ってることが全く理解できない。


「お嬢、頼まれていた胴着用意しておきました」

突然、襖の向こうから甚三の声が聞こえた。
はっと我に返る。

「甚三、入って」

今は甚三の仲介が欲しい。こいつと2人きりで部屋に居ると、気がおかしくなりそうだ。
襖が開く。

すると、神谷司は部屋に入ってきた甚三を見るなり、落ち着いた声で呟いた。


「あれ?この間の」

甚三はそいつと目があうと、びっくりした様子で構えた。


「神谷、兄貴が探していたぞ」
「は?父さんが?」
「えー?こんな広い家に1人で入れられて場所分かれって方が無理なんじゃない」

甚三と神谷司を交互に見た。
なんなんだ。2人は面識があるのか?!
しかも、父までもこいつを知っていたなんて。

「じじじじ甚三、こいつは…?」

もう何がなんだか分からなかった。
何でこんな赤の他人1人を組が探しているのか。