落雁
「…2週間も学校休んで、ずっと仕事入ってたの」
「そうだけど」
「今までどこに居たの」
「色んなところ転々としてた」
淡々とあたしの質問に答える司に腹が立ってくる。あたしが子供みたいじゃないか。
「…当主、やめるんじゃなかったの」
「気が変わった」
気が変わった。そんな簡単な言葉で片付けられてしまった。
あたしがどんなに欲しくても手が届かない、当主の座を。たった1回の気変わりで、手に入れられるんだ、こいつは。
「っ、あのさ」
文句を言いかけたところだった。
林のほうから司を呼ぶ声がする。
司は1度あたしを見下ろしてから、「着いてこないでね」とだけ念を押し、奥に入っていってしまった。
無表情で、スーツ着てたらそれらしく見えるじゃないか。てか、威圧感がすごかった。
それに圧されてるみたいで、かなり不服だ。
あたしが着いていかないわけないじゃないか。
真っ暗の中、木を避けながら司の背中を追っていく。
少し歩いたところで、数人男が集まっているところに出た。
木の後ろからそっと様子を見る。
誰かが倒れていた。きっと、あれが司の言っていた遺体なのだろう。
「…俺は何もしらねぇ!!」
いきなり誰かが怒鳴った。
見つけたのは、遺体だけじゃないの??
あたしは目をよく凝らす。
京極のものが5人居て、遺体が横たわっている。
ほかに誰が??
しゃがんでいた司が立ち上がった。
右手で何かを掴んでいる。
人だ。
司が誰かの首根っこを掴んで、引き摺っている。
…耳が、赤い。
暗くてよく見えないけど、多分、ない。
他の組の人間は、遺体だけじゃなかったんだ。
「っ、うああああああああああ」
悲鳴が耳をついた。
今、司は何をやっている??
背筋がぞくりとした。
本能で感じる。
逃げろ、あたしにはできない。
あたしは司に待っていろと言われた場所に戻って、みんなを待つことにした。
父さんが、今まで現場に連れてこなかったあたしをなぜ現場に連れてきたのか分かった。
司が、次期当主になるのは確定だ。
この2週間でどれだけのことをしたか知らないけど、きっと司は上手にやりこなした。
父さんは、司を認めたんだ。
そして、あたしに力量の差を見せるため。
認めたくないけど、あたしにはきっと、司やみんなのやっていることはできない。
父さんはそれを読んでいた。
母の付き人、雪姉さんだって女だけど、問題なくみんなと同じことができるだろう。
力とか、腕力とかの問題じゃない。
あたしの考えが甘すぎた。