落雁
「…この間の遠足の時さ、芽瑠ちゃんが誘拐されたでしょ??弥刀ちゃんも巻き添え食らって犯されそうになってたのに、弥刀ちゃんは体が自由になったら、すぐに芽瑠ちゃんの行ったよね。
その時さ、かなりびっくりしたんだよね。
驚きと言うか、苛立ちというか…なんだろ、よく分かんないけど。
弥刀ちゃんは、そういう事を見返りを求めてやってるんじゃなくて、ただ自分がやりたいからやってるんだって知って、すごく純粋な子だなって思った。
僕だったら、できない。
どんな状況でも、僕を守ろうとしてくれたのにも驚かされたよ。
ほんとに真っ直ぐで、純粋で、かっこよくて、強くて、世間知らずで、素直な弥刀ちゃんだから、守らないとって思ったんだ。
誰かに殺されかけないような危なかっしいこともするから、弥刀ちゃんを助ける存在は、僕でありたい」
わかった??と司は笑う。
あたしの顔が自然と熱くなる。
そんなことを思っていたなんて、知らなかった。
ぼんやりしていると、司からキスをされた。
思わず睨むと、司は可笑しそうに笑う。
「でもね」
唇が触れ合いそうな距離で司が言葉を繋ぐ。
「…僕は弥刀ちゃんが思っている以上に、汚れてるよ。あの女から聞いてるんでしょ??」
どきりとした。
この話題は、触れないようにしていたのに。
「…僕は弥刀ちゃんに釣り合わない」
長い睫毛が伏せられた。
司は、自分のことを誰よりも嫌っている。
この顔を、あたしは知っている。
あたしからキスをした。
司が顔をあげる。
「…その、あたしはまだ、司をよく知らない」
「うん」
「だから、もっと知りたい」
釣り合わないとか言わないでほしい。
自分を悪く言わないでほしい。
「…弥刀ちゃん、それは誘ってるの?」
「…は?」
「…違うよね、弥刀ちゃんはそんなに小悪魔じゃなかった」
司は笑った。いつもの、能天気で間抜けた声だ。