落雁
「今何時??」
ふと部屋を見渡してみても、時計が見当たらない。
そうだ、こいつの部屋はいつだって不便だ。
あたしは携帯で時間を確認した。
「もうすぐ2時」
「そろそろ寝ようか。明日も早いんだよね」
「えっ?!また仕事行くの?!学校は?!」
「仕事には行くよ。辰巳さんに認めてもらうには、もっと頑張らないとね。僕頭悪いから、お金関係の話になるとまるでだめなんだ」
「そろそろ来ないと、怪しまれるんじゃ…」
「大丈夫」
司の腕があたしの体を抱きなおす。
また距離が近くなって、今度は司の胸に顔を埋めた。
あたしも、その細い体に腕をまわす。
「…僕が熱出して、弥刀ちゃんがうちに来てくれた時のこと覚えてる??」
「え??…あぁ、覚えてるような」
「こうやって一緒に寝てくれたよね」
「あぁ、そういえば」
司の甘い匂いで脳味噌が溶けそうだった。
あたしは目を閉じる。
「…弥刀ちゃんとこうしてると、よく寝れるんだよね」
頭を撫でられる。
思えば2回、司のベッドで寝たことがある。
本当にただ、純粋に寝るだけなんだけど、2回ともすぐに寝付けた。そして、よく寝過ごした。
あたしは起こされるのは苦手だけど、決めた時間にスッパリと起きるのは得意だ。
だけど司と寝ると、なぜかスッパリ起きることができない。
「…あたしは、司の匂いが好き」
「匂い??」
「この甘い匂いが、よく寝れる。と言うか…落ち着く」
「甘い匂い??はじめて言われたけど」
「…えっ?!」
司の匂いを、甘いと感じるのはあたしだけなんだろうか。
「僕って、甘い匂いなの??」
「あたしには、そう感じるけど…」
頭を撫でられているのが心地よくて、どんどん司の声が遠くなっていく。
まだ起きていたい、のに。