落雁
もしかしたら死ぬかもしれない。
こんな手を使われたのは初めてだ。
青い空が目に痛い。冷えた汗が冷たい。
逃げないと。逃げないと。でも、何も考えることがてきない。あたしの脳みそ衝撃で壊れてないだろうか。
両腕を使って、体を引きずる。なんとか動くかもしれない。
「あっ、オイ」
ぐい、と髪を引っ張られた。
一気に全身の力が抜ける。
「京極さん、お願いだから死なないでね」
「いだだだだ!!!」
随分乱雑に持ち上げられた。
どこも折れてはいないだろうけど、全身が軋む。
「おい、何すんだ!!」
ぷわんと鼻につく男の香水にくしゃみが出そうになる。
そんな匂いがさらに強い車の中に押し込められた。
あたしは支えられるものがなく、車内でだらりと体を倒した。
額から伝う血が、じっとりと椅子を濡らしていくのがわかる。
ばさりと白いタオルが投げ込まれた。男は無言だ。
恐らく車内はなるべく汚したくはないのだろう。いい度胸だ。こうなったからには汚してやる。
「ねぇ、なにこれ、誘拐?」
タオルで額を擦る。真っ赤な血がべとりとついた。
男は無言だった。
何も言わないのが逆に怖い。
出血の多さよりも全身の痛みがひどい。
左側から真横に突っ込んできたけど、左側だけじゃなく全身が痛い。
この男、気を失わないぎりぎりであたしを撥ねやがったな。